雑穀コラム

食事摂取基準2025年版の変更点|食物繊維22g・鉄の上限削除と雑穀米

この記事は2026年7月26日時点の情報にもとづきます。一次資料は厚生労働省「日本人の食事摂取基準(2025年版)」策定検討会報告書(2024年10月11日公表/2025年3月25日に正誤表を反映)です。

「日本人の食事摂取基準」はおおむね5年ごとに改定される、日本の栄養政策の土台です。2025年版では、雑穀米を食べている人に直接関わる変更が2つありました。食物繊維の目標量の引き上げ(30〜64歳男性は21g→22g以上)と、鉄の耐容上限量の削除(2020年版にあった成人男性50mg/女性40mgという上限がなくなった)です。

ただし「繊維はもっと必要、鉄は上限なし」と読むのは誤りです。報告書はどちらにも慎重な注釈をつけており、とくに食物繊維には八訂の数値で計算すると目標量を実際より満たしやすく見えるという注意書きが入りました。

この記事のポイント

  • 食物繊維の目標量は30〜64歳男性で22g以上(2020年版は21g)、女性65〜74歳で18g以上(同17g)に引き上げ
  • 目標量の根拠は七訂相当の測定法。八訂で計算すると高めに出るため、目標量を満たしていても不十分な可能性があると報告書が明記
  • 鉄の耐容上限量は削除。ただし「治療目的以外で推奨量を大きく超える摂取は控えるべき」とされている
  • 3食すべて雑穀米にしても上乗せは約4g。目標22gに対して2割弱で、主食だけでは届かない

変更1:食物繊維の目標量が引き上げられた

対象 2025年版 2020年版
男性 18〜29歳 20 g以上 21 g以上
男性 30〜64歳 22 g以上 21 g以上
男性 65〜74歳 21 g以上 20 g以上
男性 75歳以上 20 g以上 20 g以上
女性 18〜64歳 18 g以上 18 g以上
女性 65〜74歳 18 g以上 17 g以上
女性 75歳以上 17 g以上 17 g以上

出典:厚生労働省「日本人の食事摂取基準(2025年版)」策定検討会報告書

目標量は「理想値」ではない

報告書は算出手順を明記しています。日本人成人(18歳以上)の摂取量の中央値13.3g/日と、望ましいとされる25g/日中間値19.2g/日を参照値に置き、性・年齢区分ごとの参照体重比の0.75乗で外挿し、整数化・平滑化したものが目標量です。

報告書自身が「食物繊維の理想的な目標量は成人では25g/日以上と考えられるが、現在の日本人の摂取実態を鑑み、その実行可能性を考慮して、これよりも低く設定されている」と書いています。22gは、理想から実行可能性を差し引いた妥協点です。

変更2:測定法の落とし穴が明文化された

こちらのほうが実質的に重要かもしれません。

食物繊維の測定法は、七訂までのプロスキー変法から八訂ではAOAC.2011.25法に変わりました。低分子量水溶性食物繊維と難消化性でん粉も測れるようになったため、多くの食品で成分値が上がっています。押麦の食物繊維は、プロスキー変法では7.9g、AOAC.2011.25法では12.2g(乾燥100gあたり)です。

一方、目標量の根拠になったメタ・アナリシスの研究は1985年から2017年に公表されたもので、栄養計算はほぼ七訂相当。国民健康・栄養調査の摂取量も七訂で算出されています。そこで報告書は、はっきりとこう書いています。

目標量と同等、あるいは少し超える値を摂取(提供)できていたとしても生活習慣病予防の観点からは不十分である可能性がある

これは雑穀米を食べている人にとって重要です。 当サイトの「雑穀米の食物繊維」も含め、いま流通している栄養計算はほぼ八訂ベース。計算上の数字は、目標量の前提よりやや多めに見えている可能性があります。報告書は代替案として、八訂で計算する場合は成人の目安に「25g/日」を用いる方法もあるとしています。

変更3:鉄の耐容上限量が削除された

2020年版では成人の耐容上限量が男性50mg/日、女性40mg/日と定められていました。2025年版では設定が見合わせられ、上限そのものがなくなりました。小児・乳児・妊婦・授乳婦も同様です。

理由も書かれています。鉄の吸収はヘプシジンというホルモンが調節しており、鉄が充足しているとヘプシジンが増えて吸収が抑えられます。そのため吸収の制御に関わる遺伝子に異常がない場合、食事からの摂取が多くなっても吸収量は正常な範囲に維持され、食事由来の鉄による過剰障害のリスクは無視できるとされています。

「上限がない=いくらでも摂ってよい」ではない

同じ章に、次の一文が続きます。

推奨量を大きく超える鉄の摂取は、貧血の治療等を目的とした場合を除き、控えるべきである

健常者でも、長期の鉄サプリメント利用や食事からの過剰摂取が臓器への鉄蓄積を通じて健康障害を起こす可能性は否定できない、とされているためです。上限量の削除は「安全宣言」ではなく、数値として設定する根拠が足りなかったという判断です。

さらに報告書は、月経のある日本人女性における鉄欠乏の最大の要因は月経に伴う鉄損失であって、鉄摂取量とは関連がないという報告に触れ、推奨量を超えて摂取しても必ずしも貧血の予防にはつながらない可能性がある、としています。「鉄分の多い雑穀を食べていれば貧血を防げる」という発想は、ここで一度立ち止まる必要があります(「雑穀米で鉄分は補える?」)。

この記事は一般的な栄養情報の提供です。貧血の診断・治療、鉄剤やサプリメントの使用については必ず医師の判断に従ってください。治療中・服薬中の方は主治医の指示が優先です。

変更4:骨粗鬆症の項目が新設された

生活習慣病等とエネルギー・栄養素の関連を扱う章に、「骨粗鬆症」が新たに加わりました。高血圧・脂質異常症・糖尿病・慢性腎臓病(CKD)に並ぶ形です。

正直に書くと、雑穀米はカルシウム源にはなりません。 乾燥100gあたりのカルシウムは精白米5mg、大麦(押麦)21mgで差はごくわずか。アマランサスだけは160mgと突出しますが、お茶碗1杯に含まれる雑穀は約11.3g(乾燥重量)です。骨を意識するなら、主食ではなく乳製品・小魚・大豆製品・青菜を見るべき領域です。

雑穀を食べている人にとって、結局何が変わるのか

前提:白米1合(150g)に押麦を大さじ2(約30g)混ぜて炊き、炊き上がり約400g。お茶碗1杯(150g)に含まれる雑穀は約11.3g(乾燥重量)で、この1杯の食物繊維は約1.7g(白米だけなら約0.3g)。3食すべて雑穀米にすると上乗せは約4gです。

上乗せ4gが目標量に占める割合は、21gなら約19%、22gなら約18%。ここだけ見ると誤差です。意味が出るのは「あと何g足りないか」で見たときでした。報告書が示す30〜49歳男性の摂取量中央値は12.45g/日です。

目標量 中央値との差 3食雑穀米(約4g)で埋まる割合
21 g(2020年版) 8.55 g 約47%
22 g(2025年版) 9.55 g 約42%
25 g(理想値) 12.55 g 約32%

つまり目標が1g上がったことで、雑穀米が埋められる割合は約47%から約42%に下がりました。 理想値の25gで測れば約32%です。

やることは変わりません。主食で1〜2割を底上げし、残りは野菜・豆・海藻・きのこで積む。 変わったのは「残り」の大きさのほうです。雑穀を増やすより、副菜を1品増やすほうが効きます。

繊維を狙うなら乾燥100gあたり12.2gの大麦(押麦・もち麦)が最有力で、総量の半分以上が水溶性です。一方、はと麦は0.6gで白米(0.5g)とほぼ変わりません。「雑穀なら繊維が多い」は成り立たない点は、基準が変わっても同じです(「雑穀12種の比較」)。

なお、糖類(単糖類・二糖類)の目標量は今回も設定が見送られました。日本では添加糖類・遊離糖類の摂取量を把握する基盤が整っていないためです。また、食事摂取基準は「どれだけ摂るべきか」の基準で、食品の成分値は日本食品標準成分表の管轄です。今回の改定で雑穀の成分値やカロリーが変わったわけではありません(「雑穀米のカロリー」)。

よくある質問(FAQ)

Q. 食物繊維の目標量は2025年版でいくつになりましたか?
A. 30〜64歳男性は22g以上(2020年版は21g)、65〜74歳女性は18g以上(同17g)に引き上げられました。18〜29歳男性は20g以上、18〜64歳女性は18g以上です。

Q. 八訂で計算すると目標量を満たしやすく見えるとはどういうことですか?
A. 目標量の根拠になった研究は七訂相当のプロスキー変法による値ですが、八訂はAOAC.2011.25法で数値が高く出ます。そのため報告書は、八訂で計算して目標量と同等かやや超えていても、生活習慣病予防の観点では不十分な可能性があると明記しています。

Q. 鉄の耐容上限量が削除されたので、鉄はいくら摂ってもよいのですか?
A. いいえ。報告書は、貧血の治療等を目的とした場合を除き、推奨量を大きく超える鉄の摂取は控えるべきだとしています。削除は安全が確認されたという意味ではなく、上限値を設定する根拠が十分でなかったという判断です。

Q. 3食を雑穀米にすれば食物繊維の目標量に届きますか?
A. 届きません。押麦を大さじ2混ぜた場合の上乗せは3食で約4gで、30〜64歳男性の目標22gの2割弱です。野菜・豆・海藻・きのこと組み合わせてください。

Q. 今回の改定で雑穀の栄養成分値は変わりましたか?
A. 変わっていません。食事摂取基準は摂取量の基準で、食品の成分値は日本食品標準成分表(八訂)増補2023年が出典です。当サイトの数値もそちらに準拠しています。

まとめ

2025年版で雑穀・主食に関わる変更は、食物繊維の目標量の引き上げ鉄の耐容上限量の削除の2点です。ただしどちらも、単純な方向に読むと間違えます。

食物繊維は、22gという目標そのものが実行可能性を考慮した値で、理想は25g以上。しかも八訂で計算すると多めに出ます。目標を満たしたつもりでも足りていない可能性がある——ここまで含めて初めて正確です。鉄は上限がなくなりましたが、「治療目的以外で推奨量を大きく超える摂取は控えるべき」という記述はむしろ強まりました。

雑穀米にできることは変わりません。毎日の主食を1〜2割底上げすること。 基準が動いた分だけ、副菜の重みが増した——そう受け取るのが実際的です。食品表示の変更は「アレルギー表示の特定原材料が9品目に」で扱っています。

参考にした主な情報

[編集者プロフィール]
雑穀エキスパート / 雑穀アドバイザー / NESTA公認パーソナルフィットネストレーナー
フィットネストレーナーとして活動後、スポーツイベントの企画・運営に携わる。出産を機に「食」の大切さを見つめ直す中で雑穀と出会い、その栄養価と暮らしへの取り入れやすさに魅了される。日本雑穀協会の雑穀エキスパート・雑穀アドバイザーの資格を取得し、雑穀の魅力を分かりやすく伝えるべく専門メディア『雑穀十色』を立ち上げた。トレーナーとして培った身体づくりの知見と、日々の食卓に根ざした生活者の視点から、正確で実践しやすい雑穀の情報をお届けします。